WIFUの研究者は、総合的な研究という基本原則に従って行動しています。WIFUの研究は一貫して学際的な志向を持っており、設立当初から学問分野の枠を超えて研究を進める基盤が築かれていました。私たちのチームは、ファミリービジネスやビジネス・ファミリーが直面するあらゆる問題や課題の複雑さを理解しています。そのため、研究の方法論として、理論と実践のみならず、異なる学問分野を連携させることに努めています。
WIFUにおける研究には、他に類を見ない
2つの特徴があります:
第1に、WIFUは、その戦略的位置づけとして一貫してビジネス・ファミリーを
重視してきており、我々はこれを「ファミリーの影響の重視(ファミリーを重Family Impact in Focus)」と呼んでいます。すべてのWIFUの教授陣は、ファミリービジネスのビジネスの側面の研究を行うだけでなく、ファミリービジネスのファミリーとしての側面(ビジネス・ファミリー)についても研究しています。そして企業家精神が、この(家族と事業が持続可能なように統合されていると
いう)心理社会的な影響の下に置かれているという点を考慮しています。研究と
教育、そして研究所の実践的な活動のいずれも、この独自の方針に沿ったもの
です。
第2に、WIFUの研究戦略は学際的であり、異なる科学分野を統合し、理論と実践を組み合わせたものです。そのため研究対象は、社会科学や経済学のみならず、心理学、人類学、歴史的観点を含む、総合的かつ多角的なものとなっています。国内、国外を問わず、ファミリービジネス研究に関して、これほど広範な分野をカバーしている大学の研究機関はWIFU以外にはありません。
WIFUの日本での研究
完了したプロジェクト
日本研究プロジェクトは、ファミリービジネスに関して文化比較の観点から研究するWIFUのプロジェクトの一つです。インドや中国(https://wifu-china.cn/forschung/)
などの国々に関する研究を行った後に、日本の長寿ファミリービジネスの背景に関して研究を進めることは自然な流れでした。日本は何世紀にもわたって存続する最も
長寿のファミリービジネスを擁する国であり、中には千年以上に及ぶ企業さえあります。
2018年にWIFUが研究グループを立ち上げ、日本の老舗研究を開始しました。研究グループのメンバーは、カスパリ博士(Sigrun C. Caspary)、リューゼン教授(Tom A. Rüsen)、ケルナー博士(Tobais Koellner)、クレーベ教授(Heiko Kleve)とウィッマー教授(Rudolf Wimmer)でした。日本学専門のカスパリ博士がWIFUの日本プロジェクト長に任命されました。目的は、日本の歴史的・分化的背景がファミリービジネスの発展にどの影響を及ぼしたか、他国と比較してどの特徴を示しすかなどを調査することでした。2019年の4月にリューゼン教授の指導もとで研究旅行が行い、関東、関西などで長寿企業を訪問し、社長らのインタビュー含むファミリービジネスの
企業調査が行いました。
そのためWIFUでは2018年に研究グループを結成し、日本の老舗の研究プロジェクトを立ち上げました。研究グループのメンバーは、カスパリ博士(Sigrun C. Caspary)、リューゼン教授(Tom A. Rüsen)、ケルナー博士(Tobais Koellner)、クレーベ教授(Heiko Kleve)とウィッマー教授(Rudolf Wimmer)です。日本学専門のカスパリ博士がこの日本研究プロジェクト長に任命されました。本研究の目的は、日本の歴史的、文化的背景がファミリービジネスの発展にどのような影響を及ぼしたのか、他国と比較して日本のファミリービジネスがどのような特徴を有しているのか、などについて明らかにすることです。2019年4月にリューゼン教授が率いる研究調査団が東京、名古屋、京都、奈良などにある長寿企業を訪問し、それらのファミリービジネスの社長らに対してインタビューを含む企業調査を実施しました。
この調査で得られた知見は、さらなる資料・新聞記事・企業ウェブサイトの調査やリモートのインタビューなども含めてまとめられ、「Erfolgsmuster langlebiger
Familienunternehmen in Japan(日本における永続するファミリービジネスの強み)」として出版されました。そこでは長寿性に大きく貢献したのは、日本のかつての「家制度」の伝統であると解釈できました。その他に、上の世代や先祖に対する尊敬の念、地域社会に対する理解と協力、さらに伝統の重要性や未来に対する好奇心など、これらのバランスをうまく保ってきたことも長寿性に貢献していることが明らかになりました。他のアジア諸国と同様に、日本でもシニア世代は尊重されています。シニア世代は、必ずしもビジネスに直接関与していなくても、生涯にわたって家業において一定の地位や役割を担ってきました。ですからドイツ語圏のファミリービジネスに基づいて開発された承継モデルであるWIFUの10フェーズモデルのうち、日本承継モデルではフェーズ9とフェーズ10を一つに纏める形に変更しています(図)。
日本のフェーズモデルでは、WIFU フェーズ モデルの最後の 2 つのフェーズを1つのフェーズにまとめてあります。
日本の承継モデル:
WIFUモデルを日本用に修正
(Groth, Rüsen, von Schlippe, Nagata (2022), 5 頁
Caspary, Rüsen (2023), 238頁
現在進行中の日本に関するWIFUの研究活動
世界各地のファミリー ビジネスを比較するという新しい研究視点の重要性が増しています。 ファミリーの親族構造、宗教・道徳、文化的背景などがファミリービジネスにどのように影響するかというのは今後のWIFU の文化比較研究の重要な課題の一つです。 この目的のために、2020 年 1 月にWIFU では、中国、ロシア、日本、ドイツを比較研究するトビアス・ケルナー博士(Tobias Koellner)が主導する研究プロジェクトを立ち上げました。
日本プロジェクトに関連して、ファミリービジネスに関するさまざまなトピックを研究するために、日本経済大学(東京)、麗澤大学(柏)、関西大学(大阪)などとの共同研究を進めています。ここでも、学際的な視点から 日本のファミリービジネス研究を行います。
例えば、関西大学の亀井勝之教授とは、共同で「女性後継者への承継」(ファミリー内での経営権の移譲の分析など)に関する研究プロジェクトを行っています。
また、日本経済大学の後藤俊夫教授、森下あや子教授とも、少し異なる角度からファミリービジネスに関して共同研究を実施しています。日本に関する「Narratives of Survival」プロジェクト (Link zum Projekt in Englisch) の一環として、長寿企業のファミリービジネスに対してインタビューを行いました。そこでの第1の視点は、どのような訓話(ナラティブ)が伝えられてきたのか、そしてこれらが、ファミリービジネスが何世代にもわたって生き残ってくるのにどのように貢献したのかという点です。 第2の視点は、承継に関係した親子関係でのコミュニケーションの中で生まれる「承継プロセスにおける暗黙知」の研究ですが、そこでは日本語の特異性に特別な注意を払う必要があります。第3の視点は、地域社会との関係が良くなると別の形の協力関係も生まれ、それが他の地域の模範となることについて明らかにします。そして、城崎温泉のコモンズ(共有資源)を例として地域社会での「共存共栄」について研究を行ってます。
麗澤大学のグローバル・ファミリービジネス研究センターの近藤教授との協力関係の中で提示されたトピックは、ファミリーやファミリービジネスにおける道徳や理念の役割についてです。同研究センターと協力して、日本の伝統的な経営哲学である「三方良し『売り手によし、買い手によし、世間によし』」の概念が、現在のファミリービジネスの理念にも示されているか、そしてファミリー、従業員、顧客、下請け、そして(地域)社会の幸福に貢献するか、についても研究を行っています。
麗澤大学との共同研究の枠組みの中には「WIFU実践ガイド」の日本語への翻訳も含まれます(ここを参照)。
以上の日本のファミリービジネスに関する様々な研究を通じてWIFUの比較文化研究を深めています。
また、新型コロナ時のビジネスモデル革新によるファミリービジネスの危機対応に関する日本とドイツの比較研究を行っています。新型コロナ危機的な状況のなかで、中小のファミリービジネスの多くが競争力を落とし業績を低下させました。一方でファミリービジネスの競争力を高めた企業が存在します。この両者の違いは、ファミリービジネスの持つ柔軟性や雇用維持を優先する等の内部的要因(ファミリー性)や財政支援のような外部的な要因が影響していると考えられます。そこで、新型コロナ危機下において、日本とドイツのファミリービジネスにおける緊急対応的なビジネスモデルの変革を通じて競争力を高めたケースに着目し、競争力を高めた要因を定量的に明らかにして、そのメカニズムを解明する研究を行っています。(この共同研究は JSPS 科研費の助成を受けているものです)